近代科学社

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仕事に生かせる 技術者の勉強法

著者 中村 義作

いまから16年まえの1988年4月、「技術系新入社員教育」という演題で、技術セミナーを開催した。技術系社員としての心構え、必要不可欠な基礎知識、自己啓発のための勉強法などを多面的に述べたもので、二日にわたる長時間の独演である。いろいろの会社から予想を超える多数の参加をいただき、会場を大講堂に変更するほどの大盛況であった。参加した受講者はほとんどが新入社員で、無駄話もなしに、すべての人が熱心に聴き入ってくれた。
そのとき、私が強調したのは、大学の勉強はほんの入り口で、これからが本当の勉強だということである。ややもすると、大学での勉強に懲り懲りして、これからはのんびりやろうなどと心得違いをする人がでる。そんな人は間違いなく人生の落伍者になることを知っているので、あえて強調したのである。
そのときの速記録を見ると、社会人としての認識と自覚から始まって、技術者として大成するための心がけに至るまで、技術系社員としての必須項目がほとんど網羅されている。そのいくつかを列記すると、技術者に要求されるチャレンジ精神、技術部門の役割と業務課題、技術情報の集め方、技術データのまとめ方、技術報告書と技術論文の書き方、報告と発表の仕方、実験データの扱い方、科学的管理技術の学び方、ユニークなアイディアの出し方、ハイテクと先端技術への接し方、情報化社会の展望、英会話とパソコンの修得法などとなる。このセミナーはたいへんな好評を博した。

この速記録を見直すと、今日の技術者にもそのまま通用する内容が非常に多く、速記録のままで終わらせるのはいかにも惜しい。そこで、章の構成と内容を徹底的に改変し、一般の技術者にも参考に供するよう、市販書として上梓することにした。この本で著者がとくに強調したいことはつぎの三点で、76歳の著者が体験した自分自身への戒めでもある。
第一は、技術者として、また一般の社会人として、決して独善に走ってはいけないということである。孤島に住むロビンソン・クルーソーならいざ知らず、私たちは多くの人間に取り囲まれて生きている。このことに思いをいたすと、自己中心的な考えから脱却して、上司にも、同僚にも、部下にも、自然と和がとれるようになる。いかに優れた能力の持ち主でも、他人との和がとれない技術者は失格である。
第二は、生涯すべてが勉強で、これだけ勉強すればもう十分ということは決してないということである。それどころか、勉強すればするほど、おのれの知識の少なさに愕然とする。マンガ雑誌を否定するつもりはないが、日進月歩の技術情勢を見ると、とてもマンガを楽しむ時間的余裕はない。生涯学習という言葉があるが、これは技術者にぴったりである。
第三は、効率的な勉強法を探すよりも、努力で補うほうが結局は効率的だということである。どんなに語学力に優れていても、知らない英語は絶対にわからない。それどころか、英和辞典と和英辞典の両方あっても、引けない単語はいくらでもある。嘘だと思ったら、この本の第十二章の末尾の問題に挑戦してみるといい。努力の必要性を思い知らされる。人が一時間で勉強するものでも、三倍の三時間かければ、だれにも確実に修得できる。これが私の信念であり、実行してきた貴重な体験である。

この本では、これらにたいする基本方針と具体的手順を述べている。しかし、それで十分というものではない。あくまでも勉強法であって、それを実行に移すかどうかは読者自身の心がけにかかっている。たとえば、第八草では著者の体験に基づく実験計画法の効用を述べているが、具体的なテクニックには触れていない。読者が勉強したくなる刺激を与えているだけで、読者が専門書を買う意欲にかられたならば、それで目的は果たしている。同じことは多くの章に通じるので、ぜひこの本を出発点として、いっそうの勉学に努めてもらいたい。そして、ひとたび勉強しようと思ったら、決して途中で挫けず、最後までやり通してもらいたい。そうすれば、疑いもなく読者の将来は明るいものとなる。

紙の書籍¥1,200定価(税別)

基本情報

発売日 2004年4月30日
ページ数 252 ページ ※印刷物
サイズ 46
ISBN 9784764903104
ジャンル その他
タグ 教養
電子書籍形式 販売なし

主要目次

第一章 技術者の役割と心構え
一、技術者に要求されるチャレンジ精神
二、ルールとマナーを心得よ
三、個人プレーが成り立たない技術開発

第二章 科学と工学、基礎研究と実用化研究
一、科学とはなにか
二、工学とはなにか
三、基礎研究
四、実用化研究

第三章 技術情報の集め方
一、新聞と市販雑誌
二、文献速報と抄録誌
三、特許公報
四、インターネット
五、技術情報の整理と保存

第四章 データの見方とまとめ方
一、大小関係を比べる五種類のデータ
二、計数データのまとめ方
三、計量データのまとめ方
四、因果と相関と回帰
五、統計分布の歪みと尖り

第五章 報告と発表の仕方
一、報告の仕方
二、発表の目的
三、発表の仕方(事前の準備)
四、発表の仕方(当日の心構え)
五、講演について

第六章 技術報告書と学術論文のまとめ方
一、技術報告書の目的
二、技術報告書のまとめ方
三、学術論文の目的
四、学術論文のまとめ方

第七章 技術者と数学
一、数学との出会い
二、理学と芸術の両面をもつ数学
三、思い出に残る数学書
四、技術者が必読の数理物理学
五、知っておきたい確率論と統計論

第八章 技術者に不可欠な実験計画法
一、固有技術と共通技術
二、実験計画法とは
三、有名な秤量計画
四、データの見方
五、磁気コアの実験例

第九章 ユニークなアイディアのだし方
一、アイディアをだすための技法と方法
二、問題を潜在意識に叩きこめ
三、持続的に考えず、ときには小休止せよ
四、関係がないと思う知識も吸収せよ
五、一に努力、二に努力、三、四がなくて、五に努力

第十章 伝統的な工匠の技術
一、寺の屋根
二、五重の塔
三、吊り橋
四、家紋

第十一章 街角に見る技術
一、三角形の牛乳パック
二、マンホールのふた
三、高速道路のカーブ
四、左右が逆転しない鏡

第十二章 技術者に不可欠な英語の力
一、英語の原書を辞書なしで読む
二、英会話の上達をめざす
三、英会話の体験談
四、語彙を豊かにする
五、辞書ではひけない単語

第十三章 知っておきたい先端技術
一、遺伝子の組み替えを可能にした「バイオテクノロジー」
二、微細加工の革命児「レーザ技術」
三、夢の超々特急を実現する「超電導技術」
四、頭脳労働からの解放を図る「人工知能」

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