Interviewee
坂本 松昭 (さかもと まつあき)三井住友銀行を経て、東京電力に入社。
研究開発、経営企画、マーケティング、組織開発、営業、商品開発、新規事業など、経営中枢から事業の最前線まで幅広い領域を担い、企画・戦略部門の部門長を歴任。子会社代表取締役も務める。
複雑な経営課題を構造化し、実行可能な戦略へと落とし込む、実務領域における戦略立案の第一人者。
東京大学大学院理学系研究科修了 理学修士
政策研究大学院大学修了 公共政策修士
現在 株式会社OGZA代表取締役
情報経営イノベーション専門職大学客員教授
複数企業の経営顧問として、事業改革と成長戦略の策定・実行を伴走支援
AI・DX、データサイエンスを軸に、企業変革、収益改善、事業計画、新規事業開発、マーケティング戦略、組織開発、人材育成までを一気通貫で支援。
これまでに250社を超える企業・組織に携わり、経営とテクノロジー、戦略と実行、人と組織を結びつけながら、現場起点の改革を成果へと導いている。
クライアント企業とともに未来の事業像を描き、持続的な成長の実現を支える、実践知に裏打ちされた経営改革の専門家。
主な著書
『誰がやってもうまくいく!最強の組織づくり』(同友館,2016)
『誰がやってもうまくいく!最強のマーケティングOODA』(同友館,2019)
『基礎から学ぶデータサイエンス講座』(同友館,2020)
『経営マネジメントのための基礎講座』(同友館,2022)
著者の坂本 松昭先生に著書の特徴や教科書の使い方のポイントなどをお伺いしました。
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Q. どのようなことを意識して『高校と大学をつなぐ線形代数』(以下:本書)をご執筆されましたか。
坂本ー一番大切にしたのは、「欠けた値を何で埋めるか」の前に、「なぜ欠けたのか」「そのデータから何を知りたいのか」を考えていただくことです。
例えば、満足度の低い顧客ほどアンケートに回答しないとします。回答者だけを集計すると、顧客全体の満足度を実際より高く見積もるおそれがあります。計算そのものは間違っていなくても、結論は実態から離れてしまいます。欠損値処理の難しさは、こうしたところにあります。
AIや解析ソフトを使う際にも、私が懸念するのは、結果を簡単に得られることで、その前提まで確かめたつもりになってしまうことです。研究でもビジネスでも、「いつもこの方法だから」「ソフトが自動で処理してくれたから」で済ますことなく、一度立ち止まることが大切だと思います。
だからこそ、手順だけでなく、方法を選ぶ理由と、結果を確かめる視点まで伝えるように努めました。便利なAIや解析ソフトウェアなどの道具を使いながらも、その結果を根拠を持って判断できるようになってほしい。そのための土台を届けるつもりで、懸命に執筆しました。
Q. 教科書として使いやすいように工夫した点を教えてください。
坂本ー理論と実践の間で、読者を置き去りにしないようにすることを強く意識しました。
第1部では、欠損が生じる仕組み、代表的な処理方法、RやVisual Mining Studioによる実装、カテゴリデータの扱い、信頼区間による不確かさの評価を整理しています。第2部では、それらを擬似データと100万件規模の実データに適用し、結果を比較します。「なぜそうするのか」を学び、「実際にどうなるのか」を確かめられる構成にしてあります。
また、混同しやすい考え方を区別することにも力を入れました。例えば、個々の空欄を埋めることと、集団全体の平均や変数間の関係を推定することは、同じ目的ではありません。後者では、空欄を一つずつ埋めずに推定する方法もあります。この違いを理解しますと、手法の選び方が変わってきます。
実践編では、うまくいった結果だけでなく、推定が不安定になる場合や、メモリ不足への対応なども扱いました。本書が目指したのは、手法を知ることに留まらず、使いどころとその限界まで含めて正確に理解できる教科書です。
Q. 教える立場での本書の使い方のポイントなどがあれば教えてください。
坂本ー最初から数式や手法名を説明するよりも、「この空欄は、埋めるべきでしょうか」と問いかけるところから始めていただくとよいと思います。
本書の第1章には、「年収の未回答」と「未婚者の配偶者の年齢」という例があります。どちらも表では空欄になり得ますが、後者はそもそも値が定義されません。同じ空欄でも意味が違うのです。こういった気づきが、欠損データ解析を学ぶ入り口になります。
次に、第8・9章では図表を使って、「同じ割合のデータが欠けても、欠け方が違えば結果は変わるのか」を考えてもらいます。本書では欠損率を同程度にそろえて比較しているので、欠損の量だけでなく、生じ方に注目する教材として使っていただくことができます。
生徒への課題では、計算結果に「方法を選んだ理由」「置いた仮定」「結論の限界」を添えてもらうことをお勧めします。図表で違いに気づき、理論で理由を理解し、自分の言葉で説明する。この往復を通じて、手順をなぞるだけでは得られない判断力を育てていただけるはずです。
Q. 自習など自学で使うときの本書の使い方のポイントなどがあれば教えてください。
坂本ー「自分のいつもの処理は、これでよかったのだろうか」という疑問を、一つ持って読み始めていただくと良いと思います。「欠損のある行を削除してきた」「空欄は平均値で埋めていた」といった、身近な経験が理解の出発点になります。
まず第1章では欠損の生じ方を押さえ、第2・3章で処理方法を学びます。数式が難しく感じられたら、文章や図を先に読み、「何を求めるための式なのか」をつかんでから戻っても構いません。最初の一読ですべてを理解しようとせずに、疑問が具体的になることを大切にしてほしいと思います。
手を動かす際は、第4章の小さなデータとRのコード例から始めてください。入力データと補完結果を見比べ、「どこが補われたのか」「どのようなモデルを使ったのか」を確認します。乱数や実行環境の設定も記録し、処理の内容を後から確かめられるようにしておくとよいでしょう。
そのうえで、第6章と第11章の選択指針に戻り、最初の疑問に答えてみてください。読み切ることだけを目標とはせずに、研究や仕事で迷ったときに戻れる一冊として活用していただければ嬉しく思います。
Q. インタビューをお読みいただいた皆様へメッセージをお願いします。
坂本ー本書の副題は「信頼できる推論と意思決定を導く」です。私がお伝えしたいのは、データを信頼して使うためには、そこから何が分かり、何がまだ分からないのかを知ることが大切だということです。
補完して数字が入っても、観測されなかった事実そのものが判明したわけではありません。本書では、実際に観測した値と補完した値を区別して残すことや、仮定や処理方法を変えて結論がどの程度変わるかを確かめることを重視しています。結果だけでなく、その根拠と限界も説明できるようにするためです。
欠損データの扱いを学ぶ目的は、難しい分析手法を使えるようになることではありません。データの特徴や分析の目的に合った方法を選び、得られた結果をどこまで信頼できるかを判断できるようになることです。「いつも使っているから」「なんとなく良さそうだから」ではなく、方法を選んだ理由と、結果を使う際の注意点を、自分の言葉で説明できるようになっていただければと思います。
AIや解析ソフトに計算を助けてもらう場合であっても、大切なのは「結果が出た」ということで終わらせず、その結果から何が言えるのか、結論を出す前に何を確認すべきなのかを考えるようにしてください。こうした理解を深めることで、便利な道具を活用しながら、数字を鵜呑みにすることなく、研究やビジネスの判断を前進させることができるようになります。
これからデータ分析を学ぶ学生の方にも、研究や仕事で日々データを扱う方にも、ぜひ本書を手に取っていただければうれしく思います。本書での学びを通じて、適切な分析方法を選び、結果を読み解く力を身につけてください。本書が、自信を持って研究や仕事に取り組むための支えになれば幸いです。
【株式会社 近代科学社】
株式会社近代科学社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:大塚浩昭)は、1959年創立。
数学・数理科学・情報科学・情報工学を基軸とする学術専門書や、理工学系の大学向け教科書等、理工学専門分野を広くカバーする出版事業を展開しています。自然科学の基礎的な知識に留まらず、その高度な活用が要求される現代のニーズに応えるべく、古典から最新の学際分野まで幅広く扱っています。また、主要学会・協会や著名研究機関と連携し、世界標準となる学問レベルを追求しています。