北海道大学総合博物館企画展
「感じる数学 Tangible Math ~ガリレイからポアンカレまで~」
開催記念
正宗 教授(東北大学)
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古畑 教授(北海道大学)
スペシャルインタビュー
Interviewee
正宗 淳 教授東北大学大学院理学研究科(数学見える化プロジェクト代表)
古畑 仁 教授北海道大学大学院理学研究院数学部門
北海道大学総合博物館では、9月25日まで、夏季企画展
「感じる数学 Tangible Math ~ガリレイからポアンカレまで~」を開催中です。
こちらの夏季企画展の中心である
東北大学、数学見える化プロジェクト代表の正宗 淳 教授と
北海道大学の古畑 仁 教授に企画展の内容やそこに至るまでの経緯、
さらにプロジェクト運営やおすすめの数学書籍についてなど
たくさんお話を伺ってまいりました。
企画展について語る
Q. 夏季企画展を開催するに至った経緯を教えてください
正宗―4年前より、数学のプロモーションを行う必要があるという共通認識のもと、高校・大学の先生方などと月に一度のペースで勉強会を続けて参りました。その結果を広く皆さんに見ていただきと思い、北海道大学総合博物館に相談し、このように実現に至りました。
古畑―私も身近で手仕事的な感覚をとおして数学的現象を体感したいという思いや、それを教育活動に生かしたいという思いを持っておりました。そして、正宗さんの巻き込み力や高校の先生方のやる気やパワーがあって、このような形になりました。
Q. 企画展の内容を詳しく教えてください
正宗―テーマがいくつかあって、それを繋いで物語になるようにしています。物語の内容については、ガリレイから始まりポアンカレまでに至る歴史の中で、私たちが大事だなっていう部分。その物語のコアのアイディアを振り子や滑り台など、いろんな機器を使って、遊びながら学ぶというような内容になっています。
Q.とても面白そうですね
正宗―やっぱり面白いことって、誰がやっても面白いわけですよ。だからこそ調べるわけです。そして、それが調べきれないから、技術が発達する。例えば、ガリレイやホイヘンスがいくら天才といっても、一代ではどうしても調べきることができない。だから、ニュートンが現れるし、そのあとにポアンカレがさらに新しい方法を編み出していく。今回確信したのは、簡単な機器とかでも十分にその現象が見られるから、そこからは目を離せない。逃れられないです。その根本的な面白いところっていうのを浮き彫りにして、それを子供たちでも楽しめるような形の展示になっていると思います。
Q.来場者数や反響はいかがですか?
正宗―博物館への来館人数は、多い時で1日1000人を超え、そのうち多くの方が、我々の展示に足を運んで下さっています。また、満足度のアンケートでも、ほぼ100パーセントの方が満足したと答えていただき、また素敵なコメントもいただいています。
Q.その秘訣とかはありますか?
正宗―実際に来場者の方と触れ合うボランティアの皆さんが、とても楽しみながらも、真剣に親切に対応していただいているので、楽しさや真剣さなどが伝わっているのが秘訣だと思います。
Q.ボランティアの皆さんとは?
古畑―高校生から大学院生など、総勢50名ほどです。これがこの企画展のユニークな点のひとつかもしれないです。全然知らない方に説明するという体験は、みんな初めてだと思います。なので、たどたどしいながらも彼らの熱意が伝わり、それも楽しめるのではないかと思います。
Q.来場される方の客層や様子を教えてください
古畑―夏休み中ですから、たくさんの親子連れや遠方から観光に来られた方々もいらっしゃいます。例えば、家族連れの方は、親御さんがお子さんに、逆にお子さんが親御さんに、これはこうなんだよと説明していたりするのを見ると、こちらとしてもとても嬉しく感じています。
Q. 企画展を進める中で楽しかったことを教えてください
正宗―今回の展示に関して勉強したことで、いろんな発見や学びがとても多かったことが1番楽しかったです。あとは、実験道具というものを実際に作ってみて、面白いなということがわかりました。さらに実際に企画展が始まり、Twitterなどで自分が思っていた以上に反響があったことも自信に繋がり、これも楽しかったことのひとつだと思います。
古畑―会場で解説をしていると、年齢にかかわらず、こちらが感心するような本質的な質問などもしてくれます。そういった方たちとも出会うことができ、それはとても嬉しいです。あとは、来てくれた方が楽しそうに非常に生き生きしている様子を見て、この展示をやってよかったなと思っています。
Q. 数式を使わない展示や説明は難しかったのではないですか?
古畑―もちろん数式を使うことが大切な場面もありますが、式を使わないで言えることや、言うべきこともいっぱいあります。数学というと、式ばかりだと思っている方も大勢いるので、それはちょっと違うということも、こういう機会に伝えたいと思います。
Q.見てほしいポイントなどはありますか?
古畑―この企画展がユニークなのは、ストーリー性にこだわっている点にあると思います。幅広い数学入門的な展示ではなく、かなり思い切った切り口で題材を選んであります。
正宗―ガリレイからだいたい300年、この間に大きいアイディアの転換、革命的なことが何回か起きていて、それらをストーリーに盛り込むことが大事だと思いました。また、物理的な面だけでは突破できない、つまり数学的なアイディアでないとわからないところは、非常に大事な核になっているので、そういったところを数学者としては強く打ち出したいと思っています。
Q.企画展に合わせて出版した書籍について、お教えください
正宗―『感じる数学Tangible Math ~ガリレイからポアンカレまで~』(共立出版)を書いた目的として、高校生が読める本を書くというのがありました。というのも、数学が好きだった子が、大学に来て全然違うと感じるなど、ミスマッチがあるわけです。大学数学には色んな広がりがあることを知らずに選ばないという子もいます。なので、ストーリー性を持たせ、数式ばかりにならないようにするなど、読みやすいように工夫して書きました。
古畑―展示と本のストーリーは同じものになっています。ただし、本はかなり専門的なことまで書かれているので、ゆっくり楽しんでいただけると思います。
プロジェクトの運営について語る
Q.プロジェクトの準備で意識されたことなどはありますか?
正宗―今までの蓄積をどのようにすれば効率的に使えるかということなど、最終的なアウトプットを意識しながら進めました。どのぐらいのスケール感で、どのぐらいの人で、誰を対象にするかなどを1年半から2年ぐらい前から博物館とやり取りをしました。
Q.今回のプロジェクトのメンバーについて、教えてください
古畑―コアメンバーに10名程度、高校の先生方がいます。多忙を極める中で、何か新しいことをやろうとこのような企画に向き合っている姿勢を拝見すると、本当に頭が下がる思いです。博物館で解説していただいたあとに、高校に戻って部活を指導してくるみたいな。すごい力を持っていますし、彼らと普段接している高校生は本当に幸せなのではないかと思います。
Q.高大連携は意識されましたか?
正宗―結果的にそうなりました。ですが、面白いと思って人が集まり、色んな人、つまり高校や大学の先生以外にもたくさんの人が関わってくれました。このような一緒になにかをやろうとするには、時間をかけてでも、お互いの立場や考えを理解していく必要があると思います。
古畑―高大連携のような制度や組織的なことにこだわらず、様々な分野や場面でそういう人とのつながりの機会が増えていくのはとても大切だと思います。
Q.ほかにはどうでしょうか?
古畑―博物館のかたには非常に情熱をもって協力していただいきました。大変協力的で、色々とアイディアを出してくれたりしました。ほぼ仲間感覚で一緒にやってくれています。
Q.何か印象的なことはありますか?
正宗―博物館に勤められる方って、個人個人が何かしらの技を持っていて、今回、そういったものを使っていただいこともあります。例えば、漫画を書くのが得意な方に子供向けにちょっとした漫画を書いていただいたら、それがすごくヒットしたりして。かなり自由にやらせてもらい、我々にとってとても面白くて、新しいことでした。
Q.プロジェクトはどのように進めていきましたか?
正宗―大きいプロモーションをやるという目的は決めて、あんまり細かいとこまで決めずにいました。色んなアイディアを持ち寄って、トライアンドエラーを繰り返して進めました。
Q.企画を実現するコツを教えてください
正宗―良いメンバーを集めることです。
Q.具体的にどういうことでしょうか?
正宗―最終的に気が合うのが残って、結果的に良いメンバーになった感じかもしれません。ただ、メンバーが1人欠けていても、すごくしんどかったと思います。例えば、私はいま東北大にいるので、現場のことはほとんどできないです。なので、現場のことは古畑さんがほとんどやって下さいました。あとボランティアの管理は元高校教員の方に、技術的なところはその辺に強い方がやって下さったり、と役割分担はそういった形に自然と落ち着きました。また、キーパーソンになる方、例えばあの秋山仁先生やデザイナーの岡田さんとかは、直接お会いしました。このような一流の方たちが、お仕事もあるのに、皆さんとても一生懸命やって下さいました。
Q.現場の指揮をされていた古畑先生は、いかがですか?
古畑―実は現場のこともだいたいは正宗さんがやっています。普通こういう企画をするのは、大きな組織を組んでやるかと思います。そうすると、テーマがぼやけたりすると思いますが、今回は偏った切り口のテーマに、少人数で大胆に突き進んでいるところがあります。そういう意味でも、ユニークだと思いますし、今のところ成功していると思っています。大変なこともありますが、学園祭みたいにみんなでやっているというイメージです。
Q.学園祭ですか?
正宗―ええ、グループを小さくしておくというのは、かなり意識しました。またすべてを議題という形ではなく、報告という形にして、動きやすくやっていました。大事なことはすぐに、オンライン会議などで集まれる人だけ集まり、どんどん決めていくというスタイルで進めました。結構大変な中で、皆さんやって下さり、非常に良かったと思います。
Q.最後に企画展について、なにか一言をお願いします
古畑―コロナの様子を見つつ、ぜひ足を運んでいただきたいです。解説ツアーを是非お楽しみください。
本について語る
Q.電子書籍や電子教科書はお使いになりますか?
古畑―図書館で使えるようになっていますし、一部をダウンロードしたりしても使ってはいます。ただ、私は、やはり本は本でなければいけないという考えがありまして、本という媒体がこれからも残り続けることを望んでいます。
正宗―私も長く思考する時は、紙媒体がいいですね。宝物を探すかのように、周りの情報を拾いながら、数学雑誌を見ていたのが面白かったです。
Q.数学を学ぶ人に、おすすめの本を教えてください
正宗―『数の悪魔』(晶文社)は広い世代におすすめができます。また古畑さんが書かれた本もおすすめです。
古畑―若い学生さんにも長時間、持ち歩けるようなしっかりした1冊を選んでほしいですし、1年とか2年とかかけてそういう本を読んでほしいです。私自身、大学に入って買った高木貞治と佐武一郎の有名な教科書を今でも使っています。また、『トポロジーと幾何学入門』(培風館)もおすすめです。
Q.弊社の本でおすすめの本はありますか??
正宗―『数学ワンダーランドへの1日冒険旅行』は、秋山先生でないと書けない名著だと思います。秋山先生はもうハートみたいな人で、今回も貴重なアドバイスをいただき、心強かったです。また9月17日の講演に来ていただくので、すごく楽しみにしています。
古畑―『調和積分論』は、良書だと思います。
おふたりともお忙しい中、誠にありがとうございました。
コロナ対策もしっかり行っているので、
お時間がある方は、解説ツアーにぜひ参加してほしいそうです。
北海道大学総合博物館 数学見える化プロジェクト
夏季企画展「感じる数学 Tangible Math ~ガリレイからポアンカレまで~」について、
詳しくはこちらをぜひご覧ください。
★『感じる数学Tangible Math ~ガリレイからポアンカレまで~』
数学みえる化プロジェクト・北海道大学総合博物館 企画
正宗 淳 編
共立出版, 2022年
★『数の悪魔』
エンツェンスベルガーベルナー 著
晶文社, 2000年
★『トポロジーと幾何学入門』
I.M.シンガー・J.A.ソープ 著
培風館, 1995年
【株式会社 近代科学社】
株式会社近代科学社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:大塚浩昭)は、1959年創立。
数学・数理科学・情報科学・情報工学を基軸とする学術専門書や、理工学系の大学向け教科書等、理工学専門分野を広くカバーする出版事業を展開しています。自然科学の基礎的な知識に留まらず、その高度な活用が要求される現代のニーズに応えるべく、古典から最新の学際分野まで幅広く扱っています。また、主要学会・協会や著名研究機関と連携し、世界標準となる学問レベルを追求しています。