Interviewee
山本 修一郎1979年名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻修了。
同年日本電信電話公社入社。2002年(株)NTTデータ技術開発本部副本部長。2007年同社初代フェロー、システム科学研究所所長。2009年名古屋大学教授。2020年名古屋大学名誉教授。同年電子情報通信学会フェロー。
現在、名古屋国際工科専門職大学情報工学科 学科長 教授。
著書
『要求定義・要求仕様の作り方』(ソフト・リサーチ・センター、2006)
『ゴール指向による!! システム要求管理』(ソフト・リサーチ・センター、2007)
『CMCで変わる組織コミュニケーション』(NTT出版,2010)
『要求開発の基礎知識』(近代科学社Digital、2019)
『DXの基礎知識』(近代科学社Digital、2020)
著者の山本 修一郎 先生に著書の特徴や教科書の使い方のポイントなどをお伺いしました。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Q. どのようなことを意識して『情報技術者倫理の基礎知識』(以下:本書)をご執筆されましたか。
山本ー数の人や組織、社会の文化に加えて情報技術が関係する倫理上の問題は、個別部分を取り出して分析するのではなく、全体を包括的に理解する必要がある。
このため、情報技術に関する倫理の諸問題を、部分に分解するのではなく、部分からなる全体を対象とする「システム思考」で読み解くことにした。また、言葉だけで複雑な情報技術と倫理の関係を紐解いて理解していくことが難しいと思われたので、本書ではシステム思考で用いられる図(システミグラム)を用いて情報技術と倫理の諸問題を表現した。システミグラムによって複雑な要素が絡み合う情報技術と倫理の問題を図解できたと考えている。
Q. 教科書として使いやすいように工夫した点を教えてください。
山本ー本書では,①情法技術者が所属する組織における倫理を扱う話題(第1章~第3章)、②個人として情報技術を扱う上でのメディアリテラシーなどの話題(第4章~第7章)、③AIやロボット、ゲームなど新しい情報技術を開発する上での倫理的考慮事項(第8章~第12章)、④情報技術が関連する法令に分類して執筆している。
各章では、用語の定義、情報技術とその倫理的側面、社会的な事件とその原因と対処策を説明している。用語の定義では著者や組織によって異なる定義が使われることがあるので、併記して違いが分かるようにした。
Q. 教える立場での本書の使い方のポイントなどがあれば教えてください。
山本ー各章にある事例や社会的事件を題材に学生との対話時間を設けることで、学生が自分で考える機会を提供できる。なぜ社会的事件になったのか、どうすれば事件化を防ぐことができたかなど、各章の話題を例に議論の時間を設定できる。
また、情報技術の倫理はまだ発展途上にあり、未解決の研究課題を紹介している。発展研究のテーマとして、研究課題へのアプローチを学生と議論できる。
読むだけではなく、学生が自分で考えて表現することの楽しさを学ばせることもできる。
なお、本書の確認問題を集めたサイトがあるので、修得した知識を確認する小テストとして利用していただければと思う。
Q. 自習など自学で使うときの本書の使い方のポイントなどがあれば教えてください。
山本ー本書を最初から順番に読むよりも、関心のある内容から入るほうが、内容をよりよく理解していただけると思う。
情報技術と倫理に関連する事件を説明しているので、情報技術の詳しい説明は飛ばし読みして構わないので、社会的事件の視点から、情報技術の進展で社会と倫理がどのように変化しているかを理解していただきたい。
また、理系の読者には、社会とともにある情報技術のあり方を考えるEthics by Designをぜひ、理解して実践していただきたい。
Q. インタビューをお読みいただいた皆様へメッセージをお願いします。
山本ー情報技術者として、倫理を基礎から理解したい方にぜひ読んでいただければと思います。
とくに、倫理上の問題が起きないだろう、自分が担当する業務に倫理は関係ない、倫理を考えるよりまず先にやるべきことがある、コンプライアンスばやりの世の中は息苦しい、もっと自由に仕事をしたい、倫理なんかめんどくさいことを考える前にやるべき仕事があるという風に考えていませんか?
倫理を知ることで、日常生活や仕事上の争いごとを未然に防ぐことができるかもしれません。また、すでに発生した紛争を解決するために、倫理の考えを活用できる可能性があります。
理系文系を問わず、本書では,社会的事件や事例を分かりやすく説明しています。この事件や事例を読むことで、倫理的行動によって無駄な紛争を避けることができることを理解できるはずです。
本書では、エシックスウォッシング、エコーチェンバ―など新しい言葉についても説明しています。これらの用語やその背景について知りたい方にもぜひ本書を読んでいただければと思います。
【株式会社 近代科学社】
株式会社近代科学社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:大塚浩昭)は、1959年創立。
数学・数理科学・情報科学・情報工学を基軸とする学術専門書や、理工学系の大学向け教科書等、理工学専門分野を広くカバーする出版事業を展開しています。自然科学の基礎的な知識に留まらず、その高度な活用が要求される現代のニーズに応えるべく、古典から最新の学際分野まで幅広く扱っています。また、主要学会・協会や著名研究機関と連携し、世界標準となる学問レベルを追求しています。