Interviewee
鈴木 英男三重県生まれ.
東北大学大学院博士課程修了,博士(工学).
東北大学助手,Stanford大学客員研究員を経て,現在東京情報大学教授.
今回上梓した『PARI/GPで計算しながら学ぶ 整数論・暗号理論・符号理論』は、PARI/GPおよびSageMathを用いた多数のプログラミング例を提示しており、実際に計算プロセスを追体験することで、各アルゴリズムの動作原理や数学的性質に対する深い洞察を得ることが可能となっています。従来にはない、新しいタイプの整数論・暗号理論・符号理論の教科書です。
著者の鈴木 英男 先生に著書の特徴や教科書の使い方のポイントなどをお伺いしました。
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Q. どのようなことを意識して『PARI/GPで計算しながら学ぶ 整数論・暗号理論・符号理論』(以下:本書)をご執筆されましたか。
鈴木ー従来、暗号理論・符号理論の分野では、理論の説明のみの教科書や、Python、C言語、Mathematicaのプログラムを掲載した教科書がほとんどでした。しかし、PythonやC言語では実行環境のインストールが必要であり、Mathematicaは有料ソフトウェアであるため、いずれも手軽とは言えません。一方、今回利用したPARI/GPは、ダウンロードするだけで実行可能な上、非常に多くの整数論標準関数を備えたフリーソフトウェアです。ユーザ自身が新しい整数論関数を容易に作成でき、計算結果も瞬時に出力されるという特徴があります。暗号理論・符号理論は、基本的に数学の整数論(代数学)に分類される学問分野であり、PARI/GPを用いれば様々な暗号理論・符号理論アルゴリズムを実行できます。そこで、書籍題目の通り『PARI/GPで計算しながら学ぶ 整数論・暗号理論・符号理論』を執筆することにしました。
Q. 教科書として使いやすいように工夫した点を教えてください。
鈴木ー本書では、PARI/GPおよびSageMathを用いた多数のプログラミング例とその実行結果を提示しています。それにより、実際に計算プロセスを追体験することで、各アルゴリズムの動作原理や数学的性質に対する深い洞察を得られるようにしました。特に、楕円曲線上の演算とガロア体(有限体)の解説を丁寧に詳述しています。付録のプログラムでは、ガロア体を生成できる原始多項式をすべてリストアップすることが可能です。
従来、ガロア体を生成する原始多項式については、Lidl・NiederreiterやPeterson・Weldonの巻末付録に頼っていました。しかし本書では、それらに頼らずとも自分で簡単に計算できるようプログラムを作成しました。本書巻末付録では、PARI/GPの使い方のTipsやPARI/GP練習問題を計76問用意し、問題を解いていくうちに使い方に慣れることができる構成となっています。本書付録で用意したPARI/GPによるAES暗号の暗号化・復号プログラムは、世界で初めて筆者がプログラミングしたもので、WebブラウザまたはPARI/GPソフトの環境下で容易に瞬時に計算できるプログラムです。
これら付録のPARI/GPプログラムは、https://github.com/hideo7suzuki で公開しています。付録とGitHubの両方で公開していることを冗長に思われるかもしれませんが、一般的に、Webサイトよりも紙の書籍の方がロングライフなので、長く残ることを期待して書籍にも掲載しました。
Q. 教える立場での本書の使い方のポイントなどがあれば教えてください。
鈴木ーまず、例題のプログラムを実行してみて、書籍に記載されている解答と同じ結果が出ることをご確認ください。次に、問題には解答を付けていませんので、先生方ご自身で正解をご確認の上、学生にご指導ください。なお、誤植や間違いなどで書籍と異なる計算結果が出た場合、上記GitHubサイトには正誤表も掲載していますので、プログラムの入力ミスか、書籍自体の誤りかのいずれかです。書籍に誤りがある場合は、hideo7suzuki@gmail.com までご一報いただけますと幸いです。正誤表に追記いたしますので、よろしくお願いいたします。
Q. 自習など自学で使うときの本書の使い方のポイントなどがあれば教えてください。
鈴木ー本書の表紙にご注目ください。パソコンと湯気のたつカップ、観葉植物、ペン立てが描かれており、楽しくリラックスしながら本書を満喫していただきたいという著者の願いが込められています。本書を参考にPARI/GPで計算したり、鉛筆で計算したりと、多様な方法で整数論・暗号理論・符号理論の計算を楽しんでいただきたいです。本書巻末の引用・参考文献には、世界最先端の様々な文献やWebサイトを掲載しています。文献数も多いので、興味に応じて最新情報を入手してみてください。本書を読了し、基本を身に付けられた後は、ぜひガロア体については[Mullen他]、暗号については[高木剛24]、符号については[今井90]に挑戦してみてください。
Q. インタビューをお読みいただいた皆様へメッセージをお願いします。
鈴木ー本書では、「暗号理論」と「符号理論」に必要な「整数論」を1冊で網羅することを目的としました。本書をマスターすれば、新しい暗号・符号アルゴリズムに出会っても、理解することは難しくないでしょう。初学者の方は無理をせず、途中からでも構いませんので、興味を持てる節からまず挑戦してみてください。理解するには計算を楽しむことが一番です。読者の皆様からのニーズがあれば、本書を増補改訂して第2版を出版したいとも考えています。
【株式会社 近代科学社】
株式会社近代科学社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:大塚浩昭)は、1959年創立。
数学・数理科学・情報科学・情報工学を基軸とする学術専門書や、理工学系の大学向け教科書等、理工学専門分野を広くカバーする出版事業を展開しています。自然科学の基礎的な知識に留まらず、その高度な活用が要求される現代のニーズに応えるべく、古典から最新の学際分野まで幅広く扱っています。また、主要学会・協会や著名研究機関と連携し、世界標準となる学問レベルを追求しています。